So-net無料ブログ作成
検索選択

九月大歌舞伎 夜の部 2005.9.4 [歌舞伎]

先月からズーッと週末は歌舞伎座通いだ。
今日は九月大歌舞伎夜の部の初見。
お席は1階21列6番。
柱が邪魔になるかと危惧したが、そんなこともなく舞台も花道もとてもよく見えた。

●「平家蟹」(へいけがに)
平家が滅亡して二ヶ月後の壇の浦では、甲羅に人の顔が浮き出た「平家蟹」と呼ばれる蟹が見つかるようになっていた。
平家に仕えていて生き残った官女たちは、惨めな暮らしを強いられ中には身を売るものもいるという。
その1人に玉琴(魁春)という女がいた。
彼女の姉であり、やはり女官だった玉蟲(芝翫)は、夜ごと集まる赤く大きな平家蟹たちに、平家の武将たちの名を付け呼びかけるという狂気の様で、栄華への未練と源氏への恨みを断ち切れずにいた。
平家の武将から僧となった雨月(左團次)に諭されても聞く耳を持たず、玉琴(魁春)が源氏方の那須与市の弟与五郎(橋之助)と恋仲にあると知るや、その怒りは頂点に達した様子。
二人の仲を許したと見せ、平家蟹の肉を浸した源氏調伏の酒を飲ませて、呪い殺してしまう。

開幕と同時に場内が真っ暗になり、舞台のスクリーンに次々と絵が映し出され白石加代子のナレーションで「平家滅亡」の様が物語られる。
歌舞伎にナレーションが入るのは珍しいことだ。
何だか学生の頃体育館で見た歴史物の授業のような気持ちになり、とても懐かしい気分になった。
この映像が終わってからも場内はいつもの歌舞伎座よりは薄暗い。
雨月の左團次は武士だった頃の名残の眉も凛々しく、無骨な僧侶という役柄がピッタリだ。
玉琴の魁春は17歳位のお役とのことだが、さすがにそこまでの若々しさはないものの身を売って暮らしを立てているといった、どこか色気の漂う女を醸し出している。
与五郎の橋之助は今月もとても精悍なお役。
いやぁー、キレイです、ホント。
生真面目な人柄も彼にピッタリだし、こういうお役をやらせたら安心して観ていられるなー。
そしてやっぱり玉蟲の芝翫、コワかったよ~。
ものすごーくコワかった!
恐ろしいまでの恨みと執念が見事に表現されていた。
玉蟲の家の床下からゾロゾロと出てくる平家蟹も不気味で、その蟹に語りかける玉蟲の狂気といったら…
先月観た怪談の「法界坊」よりもズーッとコワかったよ~。
ただ、やはりお歳ということもあるのだろうが足元が少々覚束なく、動きはぎこちなかったりするところもあったが、それは仕方のないこと。
台詞回しとその妖しげな演技だけで十分余りある玉蟲だ。
扇に付いている長い飾り紐で毒入りの酒を飲んで苦しんでいる与五郎と玉琴を打ち据えるところは、見ていて思わず「じょ、女王様?!」と思ってしまったけど(笑)。
2人を殺してしまった後にフッと我に還り、「源氏が責めてくるに違いない、どうしたらいいの?!」と蟹たちに聞く場面の表情の切替も見事だ。
家の裏にある海に入水する場面での舞台美術、本当に波が立っているようで素晴らしかった。
岡本綺堂の作品の中では初期のものらしく、その暗さは他のものと比べても少々毛色が違うと感じた作品だった。


●「勧進帳」(かんじんちょう)
兄の頼朝に疎まれ、都落ちを余儀なくされた義経(福助)とその家来の弁慶(吉右衛門)一行が、安宅の関で、関守の富樫左衛門(富十郎)にあやしまれ、詮議を受ける。

歌舞伎を知らない人でもこの演目だけは聞いたことがあるくらいに有名だったりする。
昨年12月の国立劇場で吉右衛門の兄である幸四郎の弁慶、そしてその息子の染五郎が富樫を演っているのを観ているが、今回は吉右衛門の弁慶がとても楽しみだった。
まずは富樫の出。
松羽目物らしく、登場と同時に自分を名乗るのだが、この時の声がいつもの富十郎らしさが戻ってきていてホッと一安心。
そりゃ染五郎の富樫に比べちゃたら若々しさに欠けるけれど(笑)、厳しさがあり、いかにも生真面目な武士といった風情が漂う。
そして花道から四天王と義経そして弁慶が出てくる。
福助の義経は品があり、見た目も美しい。
動きも柔らかで少々武士らしさには欠けるが、弁慶を労い手を差し伸べる場面などは観ている観客を思わずジーンとさせる程の表情がさすがだと思った。
吉右衛門の弁慶は言うことなし!っていうくらいに素敵だ。
個人的には幸四郎の弁慶よりも好みだと思った。
その眼光の鋭さ、そして大杯を空けて女の話をするところなどは茶目っ気があり、懐の深い男を感じさせる。
何とも色気のある弁慶。
声も力強く、富樫との押し問答は思わず手に汗握ってしまっていた。
これは富十郎の富樫も素晴らしい演技だったからだと思う。
けれど、富樫が家来に言われて強力(ごうりき)を留める、「いかにそれなる強力、とまれとこそ。」の台詞には、物足りなさが残ってしまった。
ここではもう少し声を張って欲しかったのだが、少々力強さに欠けていたように思う。
この台詞がとても好きなので、ちょっと残念だなー。
富樫が分かっていながらも弁慶達を見逃すときの苦渋の表情は見事だったが、かなり強い男であるというキッとした表情だった。
こういう時の苦しんだような諦めたような複雑な表情は染五郎の方が上手いのではないか…と思ったのは、やはり贔屓目なのか?!(笑)
1番の見どころである弁慶の飛び六方での引っ込みは、迫力もあり、逸る気持ちが出ていて素晴らしいものがあったが、出来ればもう少したっぷりとやって欲しかったなぁ~。


●「忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植」(ちゅうしんれんりのはちうえ)
・植木屋
四十七士のひとり竹森喜多八(歌六)は、杢右衛門と名を替え植木屋を営み、同じく千崎弥五郎(梅玉)は、弥七と名乗り、ともに働いている。
ある日弥七は、植木見物に訪れた高師直の愛妾お蘭の方(時蔵)が、かつて恋仲だったお高であることを知って驚愕。
怒りにまかせてお蘭の方に当たりますが、杢右衛門になだめられ渋々我慢。
実は彼女は、弥五郎のために師直に近づき、高家の絵図面を入手して、彼に手渡そうとやって来たのだった。

弥五郎役の梅玉は和事の柔らかさが思った以上に出ていて、とても良い。
ちょっと女好きで、女々しく、つっころばしの風情がとても良く出ていた。
お蘭の方がお高だと分かって、怒ったりいじけたり膨れたりする場面では可愛らしさも出ていたが、これはやはり昨年12月、そしてこの6月に和事を演っていた染五郎の方が膨れっ面が似合っている(笑)。
やはり梅玉だと少々お歳を感じてしまうからなのかも知れない。
膨れっ面は若い方が似合うしねぇ~。
お蘭の方(お高)の時蔵は気品もあり、強い意志を持った女といった感じが十分に出ている。
凛とした美しさがあり、こういうお役をやらせたらこの人は本当にピッタリなのだ。
弥五郎にどうして高師直の愛妾になったかを言い訳したくてもなかなか出来ない、じれったい表情も細かに演じていて思わず感情移入してしまう。
そのお蘭が弥五郎に屋敷の絵図面を渡した後、籠の中で自害して果ててしまうのだが、可哀想でならなかった。
いくら不義をしたからと言っても、愛する人の為なのに…
籠からおびただしい血が流れていくのに、駆け寄ることもしないで呆然としている弥五郎にもどかしさを感じたまま幕となってしまった。
とても良い舞台てはあったけれど、何だか哀しい気持ちのまま歌舞伎座を後にし、やはり最後の演目はもう少し楽しい演目にして欲しいと痛感してしまった。


nice!(0)  コメント(6)  トラックバック(5) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 6

雪柳

初めまして!
読み応えのあるレポ、思わずじっくりと読み込んでしまいました。
「同感!!」や「そういう見方も・・・」と呟きつつ、舞台の感動が蘇ってきました(^^)
同じ舞台を観た感想レポを書いてみました、是非TBさせてくださいませ♪
これからもお邪魔させていただきます。よろしくお願い致します!
by 雪柳 (2005-09-10 21:43) 

Rachell

こんにちは。私は今日(9/10)見てきました。
1階で見られたのですねー、うらやましいです。
勧進帳はやっぱり花道をちゃんと見たかったです。
植木屋の弥五郎さんは、染五郎さんが演じたらにあいそうですよね。
私も「この演目で終わりなのはちょっと悲しいなー」と思いながら
歌舞伎座を後にしました。ホント同感です!
TBさせてください♪
by Rachell (2005-09-10 23:57) 

愛染かつら

雪柳様
ようこそおいで下さいました。\(^o^)/
そしてTBもありがとうございました。
私も雪柳さんのところへ早速お邪魔させて頂きましたが、コメントを入れても反映されないようで…
ちょっと重い時間なのかな。
また再度行ってみますね。
by 愛染かつら (2005-09-11 00:21) 

愛染かつら

Rachell様
こんばんは。
染ちゃんファンとしては、今月はちょっとモチベーションが下がっていましたが、一緒に行った友人が勧進帳を初めて観る上に吉右衛門さんのファンなので、頑張って1階席にしましたー。

弥五郎役、私も染ちゃんに演って貰いたいなぁーと思ってました。
きっと似合いますよねー。
by 愛染かつら (2005-09-11 00:24) 

雪柳

わぁ、お越しいただきましてありがとうございますっ(^^)
すいません~、ブログコメントの登録、時折ご機嫌が悪いことがありましてm(__)m
『勧進帳』心が揺さぶられるシーンがたくさんちりばめられた、感動の一幕でしたよね!
染五郎丈、私も大好きな役者さんなのです。感情表現が繊細で、引き込まれるお芝居をなさいますよね。
読んでいましたら、彼の富樫がぜひ観てみたくなっちゃいました!
by 雪柳 (2005-09-11 13:26) 

愛染かつら

雪柳様
>ブログコメントの登録、時折ご機嫌が悪いことがありまして
★昨日はyahooにログインしないとコメントが残せなかったのですが、今日はスンナリとログインしないでも残すことが出来ました~。
やっぱりゴキゲンが悪かったのですねー。
ここもよくそういう事があるので、お気になさらずに~。

染ちゃんの富樫、ホントーに素敵でしたよ~。
声も通ってたし、見目も美しかったし、拵えも似合ってたし…←完全な贔屓目です(笑)
あ、でも化粧した顔がちょっとウルトラマンみたいだったけど(笑)
幸四郎パパの「勧進帳」は来年の春に御園座でやられるそうですが、多分染ちゃんはその時に富樫をすると思われます。
巡業でもこの演目をなさると訊いているので、来年はとても楽しみにしているんですよー。
by 愛染かつら (2005-09-11 14:05) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 5

九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植 植木屋』 ――その2――(文花座 2005-09-18 20:37)

――初めての方は、その1からお読みください―― 《女の価値》 二人が幸せな逢瀬を楽しんでから、時は飛ぶように過ぎました。 あれ以来お高は弥七を訪ねては来ません。 そして、今日は高師直の愛妾・お蘭の方が、弥七の働く植木屋へやってくるのです。 もし、扱う植木がお蘭の方の…[続く]

九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝 忠臣連理の鉢植 植木屋』 ――その1――(文花座 2005-09-18 20:36)

【公演データ】 公演名:九月大歌舞伎『忠臣蔵外伝(=ちゅうしんぐらがいでん) 忠臣連理の鉢植(=ちゅうしんれんりのはちうえ) 植木屋(=うえきや)』 会場:歌舞伎座 観劇日:2005年9月3日 夜の部 【主な配役】(敬称略) 弥七 実は 千崎弥五郎:中村梅玉 お高 後に…[続く]

九月大歌舞伎『歌舞伎十八番の内 勧進帳』(文花座 2005-09-11 13:27)

【公演データ】 公演名:九月大歌舞伎『歌舞伎十八番の内(=かぶきじゅうはちばんのうち) 勧進帳(=かんじんちょう)』 会場:歌舞伎座 観劇日:2005年9月3日 夜の部 【主な配役】(敬称略) 武蔵坊弁慶:中村吉右衛門 源義経:中村福助 亀井六郎:中村玉太郎 太刀持…[続く]

九月大歌舞伎 夜の部(Rachell's days 2005-09-10 23:57)

今日は明日用事があるので、事前投票に行ってから歌舞伎座へ。 今日のお席は3階席。 花道見えないー。わかっていたけど、今月は勧進帳なのにねぇ。 【平家蟹】 平家が滅亡した後のお話。 那須与一が射抜いた扇をかかげた女官玉蟲は、源氏をうらんでるのだけど、 妹の玉琴はその那須与五郎と…[続く]

九月大歌舞伎『平家蟹』(文花座 2005-09-10 21:39)

【公演データ】 公演名:九月大歌舞伎『平家蟹(=へいけがに)』 会場:歌舞伎座 観劇日:2005年9月3日 夜の部 【主な配役】(敬称略) 官女玉蟲:中村芝翫 妹 玉琴:中村魁春 おしお:中村吉之丞 那須与五郎:中村橋之助 僧 雨月:市川左團次 《「人間」が…[続く]

この記事のトラックバックURL:
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

関連リンク

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。